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 ジョリーさんの予防切除

前回のコメントで話題になったので、ここにもアップしておこう。アンジェリーナ・ジョリーさんは、乳がん罹患率の高い遺伝子をもっていたので、乳腺切除を行った、というニュースだ。

ジョリーさんは、乳がんになる恐怖を抱えていたのだから、それが解消されたことには意義があると思う。「87%の確率」が「5%」に減らせたのだし。
ただし、乳がん以外の病気のリスクだって多々あるはずなので、その都度こういうやり方をしていたらきりがない。どのがんにも、それぞれ罹患率を上げる固有の遺伝子はぜったい、ある。それをぜんぶ調べて、疑わしい臓器を全部摘出・・・できるはずがない。それよりは全身の健康状態を良好に保つことの方が、利口だと思う。
ただし胸については、「無くてもかまわない」部位であり、美容再建が可能だから、やれたということだろう。そこの「発想」に対する賛否が、この問題の核心ではないだろうか。
面白かったのはこれに対するテリー伊藤の的はずれなコメントだ。こちらから引用させてもらうが、「この手術はお金がかかる。無料で検診ができるのだから、検診のほうが健康でいいなと思う」。伊藤は「女性一般」について言っているのだろう。罹患率87%の確率の人と、無関係の人を一緒にすることもへんだし、ほぼ確実な予防措置と、ただのスクリーニングをいっしょにすることもへんだ。「検診を受ければ、絶対に乳がんにならない」とでも思ってるんだろうか、この男は。ここでも「検診」の間違った誤解が普及していると思う。
これはむしろジェンダー的問題だ。
1.「女の肉体(乳房)は、(男が楽しむためには)天然ものでなければならない」
2.そういう「(男のための)自然の肉体よりも自分の命を優先する女のエゴイズムが許せない」
この2つの「男のわがまま」に抵触するから、アンジェリーナさんは批判されるのだろう。セレブ女優がそれをやるのは勝手だとしても、「一般女性」にはされたくない、ましてそんなことに「夫の給料」を使われたくない、と男が思うのだろう。
もし伊藤が「前立腺がん罹患率90%の遺伝子」をもっていると言われたら、どうするんだろう。そのまま/切る/切って再建する・・・のどれかだと思うが。「オレは検診に行ってるから平気」と豪語して、相変わらず酒や美食の日々を送るだけの度胸が、彼にあるのかどうかw


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アンジェリーナ・ジョリー、がん予防で両乳房切除―専門家の見方は
ウォール・ストリート・ジャーナル 5月15日(水)14時41分配信
 米女優アンジェリーナ・ジョリーさん(37)が乳がんのリスクを高める遺伝子変異が見つかったとして、予防のため両乳房の切除手術を受けていたことが分かった。がんの専門家たちはこの決断について、女性ががんに関する家族の病歴を調べるきっかけとなって欲しいとの見方を示した。

 しかし、専門家らは、すべての女性が乳がんの遺伝子テストを定期的に受ける必要性があるかどうかについては慎重な姿勢を示し、乳がんに関連する遺伝子の変異が見つかった場合でも、これよりも緩やかな選択肢もあると指摘した。

 ジョリーさんは、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載され注目を集めたエッセイで、検査でBRCA1遺伝子の変異が見つかり、今年初めに両乳房の切除手術を受けたことを明らかにした。母親が約10年間におよぶがんの闘病生活の末、56歳で亡くなったことが遺伝子検査を受けたきっかけだったという。

 米国では毎年、約23万2000人の女性が乳がんの診断を受ける。米国立がん研究所(NCI)は、BRCA1とBRCA2という2つのBRCA遺伝子の変異は乳がん全体の10%に満たないと説明している。またこの2種類の遺伝子は卵巣がんのケースの15%を占める。

 しかし、NCIによると、BRCA1またはBRCA2のどちらか一方、あるいは両方に変異のある女性が一生のうちに乳がんを発症するリスクは約60%。こうした変異のない女性の場合、リスクは12%だという。さらに、BRCAに変異のある女性は比較的若いうちに乳がんを発症する公算が大きく、両乳房にがんが発症する可能性も高いという。一部の研究ではそのリスクは高くて87%とされており、ジョリーさんも決断の主な理由としてこの数字を挙げた。

 女性が一生のうちに卵巣がんを発症するリスクは平均1.5%だが、BRCA1変異の場合は40‐60%、BRCA2変異の場合は16‐27%のリスクがあるという。

 テキサス州ヒューストンのMGアンダーソンがんセンターの乳がん専門の外科医、イザベル・ベッドローシアン氏は「家族の(がんをめぐる)病歴に関する知識やBRCAに関する知識が女性のためになるはずだ」と語った。その上で、検査を受ける前に、家族歴を明確にしておくべきだと述べた。

 両方のBRCA変異の検査にはだいたい3340ドル(約34万円)かかるという。家族の乳がん卵巣がん罹患率が著しく高い場合などの基準を満たす女性の場合は、米国では通常、保険の適用対象となる。

 こうした遺伝子変異がある女性が予防措置として両乳房を切除する場合、生涯での乳がんの発症リスクは約90%から、5%(乳房組織のすべてが完全に取り除かれるわけではないので)に低下するという。また、こうした変異がある女性で閉経前に卵巣を取り除くことを選択した場合、乳がんの発症リスクは50%低下する。

 スタンフォード大学が昨年、コンピューター・シミュレーションに基づいて公表した研究で、BRCA検査で変異が見つかり両乳房と卵巣の摘出手術を受けた場合、BRCA1変異のケースでは平均余命が最大10.3年、BRCA2変異の場合は4.4年延びるとの推定が示された。

 ただ、予防的な摘出手術以外にも選択肢はある。一部の医者は、年に2回の超音波やMRIを使用した検査などで、しっかりとモニターするよう助言している。

 予防的に乳房を切除する女性は増えている。BRCAの変異がない女性が片方の乳房にがんを発症したため両方の乳房の切除することを選択するケースもある。もう一方の乳房にがんができる可能性は低いにもかかわらずだ。

 こうした選択をするのは、がんへの恐怖と乳房の再建手術の進歩のためだと医師は指摘する。ジョリーさんも再建手術を受けた。