ようやく旅行できるだけの体力が回復し、軽井沢へ遊びに行った。本や書類だらけの自宅を離れて森の中で呼吸するのは気持ちがいい。内村鑑三記念堂は緑の木立の中にそびえる美しい石造りの礼拝堂だ。その資料館にあった六十六翁の「成功の秘訣」十か条の筆頭に次のような文があった。
自己に頼るべし、他人に頼るべからず。
病気をしていると、気づかないうちに他人に頼ったり期待したり「し過ぎて」しまう。もっと同情してくれてもいいのに、もっと配慮してほしいのに、もっといい治療をしてほしいのに… そしてそういう期待が十二分に満たされるということは基本的にありえないので、いつも裏切られたような寂しさを抱えてしょぼしょぼと生活する。病気になってからこの半年、そういう自分がほんとうにいやだった。これからは自分に頼ろう。
そういえば、市民フォーラムで壇上の患者さんが言った言葉が妙に耳に残っている。
がん細胞も、自分の細胞ですから。
