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 サイ子とがん

心理学的に興味がわいたので、スタウト『良心をもたない人たち』とヘア『診断名サイコ○ス』を読み、もしそういうサイコ(以下「サイ子」)ががんになったらどうなるのか、まとめてみた。

大脳皮質が機能変調を起こしているので、「愛」にも「椅子」にも同じ反応しかできない。「たとえば、癌という言葉は恐怖とか、不安とか、発病したらどうなるのかというような精神的に不穏なイメージを喚起させる。しかし、サイ子には、その言葉もただの言葉でしかない」(ヘアp.205)

K病院に入院すると腫瘍精神科のアンケートが渡され、鬱病などの洗い出しとケアが行われる。1(ほとんど無い)〜10(絶えられないほどつらい)の10段階で「宣告の時の気持ち」「現在の気持ち」「将来の見通し」のつらさを答えさせられる。うちのサイ子は、そのすべてにおいて5と回答していた。感情が希薄だったのかなと思った。

サイ子には計画性がなく、衝動的である。だから将来起きるであろう再発や肉体的苦痛のことはあまり考えられない。

普通なら病気の予後とか5年生存率とか、効果的な治療とか、再発などについて大いに関心をもつ。あるいは食道が詰まったらどのような処置があるのかとか。だがうちの父は何一つ興味を示さなかった。医者や家族に尋ねもしない。最初は高齢で達観しているせいだと思ったのだが… 
逆に、「今後治療にお金がかかるから貯金しておいた方がいい」といった将来的なアドバイスも功を奏しない。

その一方で「完全に自己中心なため、体のあらゆる小さな痛みや痙攣にたいして自意識が猛烈に強い。頭や胸に一瞬感じる痛みがいちいち気になり… その不安と警戒心はつねに例外なく自分自身に向けられるため、サイコは自分の健康を病的に不安がる心気症患者のようにもなる。…紙で指を切ったら大ごとになり、口唇ヘルペスができたらこの世の終わりのような騒ぎになる。
健康状態について脅迫観念に襲われたサイコの、史上もっとも有名な例がアドルフ・ヒトラーだろう。彼は生涯にわたって癌の恐怖にとりつかれた。癌をよせつけないため、そしてその他の数多い想像上の病気を治療するため、彼はお気に入りの専属医テオドール・モレルが処方した特別の“治療薬”を飲んだ。その錠剤の多くに幻覚を誘発する毒素が含まれていた。そのようにして、ヒトラーはみずから飲んだ毒でしだいに本当に病気になっていったのだ。たぶんそのために、彼の右手にできた(ほんものの)腫瘍が目立つようになり、1944年なかばには、写真の撮影を禁じた(スタウトp.253-4)」。

ヒトラーは癌マニアだったのかあ。サイ子は今現在の微小な痛みには著しく敏感である。うちのサイ子が、痛み止めの薬の配布が遅れると看護師を大声でどなりつけていたのもそのせいだったかもしれない。また同様に、自分の感覚至上主義なので、サイ子はアルコールや薬物の使用率が高いそうだ。モルヒネなどを使い始めたら依存して怖いことになりそうだ。

きずなが結べず、ゲームに走る。退屈しやすい。

だから入院中も、医療関係者や友人と心を通わせようとはせず、「絶食中なのに看護師からデザートのバナナをもらえるかどうか」「家族や見舞い客から金品を得られるかどうか」といったゲームの勝ち負けに終始して退屈を凌ごうとする。成功すると報酬として快感が得られる。

ルールを守れない。欲望を抑制できない。

絶食中なのにコンビニでカルボナーラとティラミスとプリンアラモードと卵サンドイッチを買ってきて一気に貪り食う。ときにセクハラ(パジャマ貸与と着替えサービスを頼んでいるのに着替えさせてもらえず、娘が見舞いに来たときに初めて、看護師が着替えや清浄を行う。おそらく着替え中にアヤシい気分になってセクハラしてたのかも、と直感した)。

物に執着する。

退院時にサイ子自身がまとめた荷物の中に、入れ歯用コップ2個、うがい用U字型容器、「絶食中」の三角札、「売店に出かけてます」の札、などが入っていた。全部病院の備品でしょ?と聞くと、看護師がいいと言った、との返事。もちろん全部返却した。コップはともかく、なぜ絶食札まで欲しがったのか・・・「思い出にするためだ」と言っていたが、実際は、それが2週間くらいずっと自分のテーブル上にあったので、自分の物だと認識し、執着したのではないか。




うーん、こんな感じかな、サイ子的がんライフは。
以上、フィクションということで、お読みくだされませ。でもsinkoさんの言うとおり、こんな老人はあちこちの病院にたくさんいそうだ。サイコなのか、ただのボケ状態なのか、もうよくわからない・・・・
主治医に「うちのサイ子がご迷惑をおかけして・・」とご挨拶をしたら、「いえいえ、もっとひどい人がたくさんいますから」とフォローされた。病院の人もたいへんだ。

良心をもたない人たち (草思社文庫)
診断名サイコパス―身近にひそむ異常人格者たち (ハヤカワ文庫NF)