ergo sum

健康ブログであるような、ないような

はてなダイアリーからの引越しにつきリニューアル模索中。

引き続きどうぞよろしくお願いします。

 大切なものをすべて見わたせる

バレエ漫画の『Do Da Dancin'』を読んでいる。作者は『アランフェス』で昔お世話になった槙村さとる先生だ。エリート少女の成功物語ではなくて、バレリーナとしては峠を過ぎた年齢の主人公が、なぜバレエなのかを自分でつかんでいく精神的な過程が描かれているので、ほかとちがって、面白い。大人のバレエ物語といったところか。
ただし、ママもバレリーナで早世(トラウマ)、トップダンサーの男が彼女に惚れて援助する、ライバルであり友人である女性が不治の病・・・といったいかにもな設定は、20年前に一世を風靡したバレエ漫画とあいかわらず同じで、そんな必要あるんかいな、と思った。で、その不治の病として出てくるのが乳がんだった。
死を表現する踊りで、容子は一瞬ふっと笑いをみせる。その理由をきかれてこう答える。

大切なものをすべて見わたせる
目がさめたように

なるほど、重い病気をすることの一番のメリットはこれかもしれない。これまでこだわっていた小さなこと(店員がいじわるだったとか、ラーメン一杯では出前してもらえなくて怒ってたこととか?)がどうでもよくなって、大切なことだけを追いかけようという気になる。逆に、他人が、相変わらず小さなことにこだわっているのがもどかしくなったりもする。
そういう、「悟った人間」を演じるかっこいい容子さんなのだが、乳がんの経験者からみると、病気の設定は変だ。著者はもう少し勉強したほうがいい。・・・容子は乳がんが「局所再発」した状態だが、10日後の舞台を優先させる。それが、命よりも踊りをとるヒロイズムのような感じで表現されているのだが、乳がんについては、初発にせよ、再発にせよ、外科手術が10日や15日遅れたくらいでは、予後にはほとんど影響しない。だがヒロイン鯛子は、「たった一つの命しかないんだから」と泣き叫んで、彼女にすぐに入院するよう勧める。だからそんな必要ないんだってば。10日くらいでは死なないんだってば、鯛子さん。それに、手術すれば助かって、手術しなければ助からない、そんな単純な話じゃないのよ。がん細胞は、もうあちこちにいるんだから。
しかもその容子さん、実際の舞台の途中に、本当に倒れてしまう。なんで?と思った。胸に局所再発したって、なんの痛みも支障もないんだから、倒れることはありえない。肝臓や脳転移でも踊れるでしょ(再再発の女医の小倉恒子さんは激しい社交ダンス踊ってますね)。骨に転移していたら痛みがあるけど、それなら最初から踊れるはずがないし。手術前だし、抗がん剤もやってないんだし・・・なんか、無理やり舞台上でドラマチックに倒れる設定にして、遺言みたいにしてヒロインに「踊る動機」を与えているなあ。
昔の漫画では、バレエと白血病の結びつきが多かった。かわいそうな少女、っていうイメージね。でも、もうそろそろやめてほしいなあ。だから乳がんでは、そうそうすぐには死なないんだってば。白血病だって、治療が成功すれば完全治癒するんだってば。
Do Da Dancin'! 1 (集英社文庫―コミック版)