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 映画『旭山動物園物語』と「勘」

(ネタばれ注意です)正月に旅行で旭山動物園に行ったばかりなので、喬も喜んで映画についてきた。動物園再建までの飼育員たちのドラマで、ストーリーはわかりきっているはずなのに、涙がでそうになる場面が三度くらいあって、予想以上に感動した。第一には、すべて事実に基づいたストーリーなので迫真性があったことだろう。チンパンジーの飼育係が仲良しの象の前ではしゃぎまわって、象に殴り殺されてしまうエピソード、そして動物には踏み込んではいけない領域があることを飼育員たちが殴り合いの喧嘩をしながら学んでいく場面などは、うーん、フィクションでは作れまい。
第二にキャスティングがよかったように思う。釣りバカのイメージが強すぎる西田敏行が主役(園長役)なので、いやだな、あるいは話題つくりなのかな、と思っていたが、普通のしかし賢明な園長を演じていて、抑制の効いた演技がかえって感動を誘ったように思う。代わりに、柄本など、まわりの男優が西田以上に「濃い」キャラ勢ぞろいだったので、お互いが拮抗していてよかった。
前のブログで、成功の理由は動物園側と市側のトップが優秀な人だったのだろう、と推測したが、それだけではない。旭川市長が交替したときに、チャンスは今しかない、と決め、女市長にかわいい動物ビデオを見せまくって「落とし」にかかるところなど、おそらく彼らは、動物たちとの丁々発止のやりあいで培った勘をいかして、人間に接していたんだなあ、ということがわかった。動物でも、舞台でもそうだけど、常に真剣に磨き続ける勘って、すごく大切だし、なんにでも役に立つと思う。(子育てなんかもそうね、そういう勘を仕事に活かせるような気がする。出産した女性棋士は必ず強くなるっていうのはそういうわけだろう)
一点だけリアルでなかったのは、西田の背広がいつも高級な新品だったところか。役柄を考えれば、もっとくたびれて汚れた背広にすべきだ(衣装メーカーがスポンサーだったのか?)。リアルということで付け加えると、あべ弘士の話が組み込まれていた。大好きな『あらしのよるに』の挿絵画家だ。旭山動物園の飼育係だった、ということは知っていたが、彼は動物園が寄生虫騒動で廃園寸前の一番困難な時期に辞めてしまう。絵本で賞をとったのでその道に進みたいというのが建前だったが、本音は仲間を見捨てて戦線離脱したかったのだろう。たしかにあべは頑固な人柄のようで、『あらしのよるに』の挿絵でも、原作者とずいぶん対立したことが、後書きかなにかに書かれていた。しかしこの利己主義的な辞任を園長は受け入れ、代わりに二つの条件をつける。一つは、絵本を出すたびに肩書きのところに「元旭山動物園飼育係」を入れること。もう一つは、講演などをする時は、必ず10回以上「旭山動物園」の語を連呼すること。辞任に対する園長の同意は、「人それぞれやりたいことをやらせてあげる」というようなうすっぺらい他者理解ではない。むしろ合理的であり、直感的な、先見の明である。飼育員の代わりなんていくらでもいるし、結果的にはあべの絵本は大当たりし、それが動物園の知名度を高めることに貢献したわけだから。そういうふうに、トップがびんびんに勘を働かせて動いている企業や組織は、ぜったいに成功する。逆に、「今までいっしょに戦ってきた仲じゃないか、俺たちを見捨てるのかぁ〜」なんて言い方で引き止める園長は、俗物で頭が悪い。(わが社はそっち側です。)
ところで、なぜか最近は涙もろい。動物園映画ばかりでなく、きのうはアマチュアの相当下手なミュージカルを観劇したのだが、それでもうるうるしてしまった。なんか、スイッチがはいってしまった感じかな。もう少し進むと、ペンギンが羽ばたいただけで泣けてくるような気がする。
http://www.asahiyama-movie.jp/news.html