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 三国志

訳あって、息子と私は三国志ファンで(白井理恵子の4コマ漫画)、ロードショーの『レッド・クリフ』を見てきた。戦闘シーンやCGを多用したハリウッド的な映画だろうな、とあまり期待していなかったのだが、いやいや、興奮した。中国の監督やスタッフを中心に、日本も技術的に協力しており、「なかなかやるじゃん、アジア!」とアジアを見直した次第だ。
ストーリーはおなじみの赤壁の戦いをオーソドックスになぞらえたものだが、キャスティングがよくて、戦国の英雄どうしの火花を散らすような争いが、うまく描かれている。周瑜役のトニー・レオンは個人的に昔から好きだった。彼はたいへんな努力派の俳優で、ひとつの役のためにものすごい勉強や練習をする。そういう蓄積が、演技のさりげなさと安定感となって表れていて、なんか見習いたいな、と思わせられる。金城武孔明は、美しくて、視線のひとつひとつに釘付けになってしまう。それぞれが競い合うようにうまく演じていて、個人的にはもっとからみあってもよかったのに、と思うくらいの端整さだった。
金城武が日本で活躍しない理由がわかったような気がする。中国や香港の一流のスターと仕事をしていたら、日本の芸能界なんか幼稚園みたいなもんだろう。その典型がNHKの大河ドラマ。昔は緒方拳とか加藤剛とか、いい俳優が主演していたのに、最近は、ジャニーズ系男優とロリコン系童顔女優の組み合わせばかり。演技力がないことくらい、もうどうでもいいから、せめてそういう現代日本の歪んだジェンダー構造を再生産するのだけはやめてくれよ、とNHKに叫びたくなる。とくに『篤姫』がジェンダー的にイヤだ、ということはフェミ系の人間ならばみんなが言っていることなので、繰り返すまいが・・・しかしあの、「上様が上様だから好きなのではありません。男として好きなのです」的な台詞は、ねえ。親の言いなりで政略結婚しておきながら、夫の「男らしさ」に惚れ、めろめろになるなるなんて、それ自体おつむの弱さを表していませんか、篤姫さん?(本当に人間的な魅力があって、理性的にそれを説明できるならともかく)つまりは、財力や権力によって自分で男を選ぶのですらなく、親の言いなりに結婚し、男が男であるというだけの理由で一生その人間に束縛されるなんて、これ以上低レベルの結婚はないのですよ。でも日本の女が総じてそのようになることを、男社会は願っているのだろう。格差社会が進行するだけに、男の財力のなさや弱さを責めないでほしい、男が男であるというだけで称えてほしい・・・そういう策略が「愛」という名のもとに、しかも「上流階級もそうなんだ」という階級的な憧れのヴェールをかぶって、どんどん社会をむしばんでいく。
他方『レッド・クリフ』では、孫権が妹に対して、このさい劉備と結婚してはどうか、と宴席で誘いかけると、その妹は、「政略結婚なんかいやだ」とはっきり断り、その場にいた劉備の急所をついて気絶させてしまう(劉備は何も言ってないのに、とんだとばっちりだ)。本作では、あくまで女性たちは脇役ではあるけれども、ちゃんと意思をもった人間として、きちんと作りこまれている。そして一番すてきなのは、英雄たちのスケールの大きさだ。「係長」レベルのちんけで陰湿な権力志向とは異なって、「天をめざし」「天下国家」を動かすことの責任をちゃんとわかっている。ああ、いい時代だったなあ。あんなふうに生きたいなあ、とほれぼれして、帰路についた私だった。