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 がんは不良少年

この本『がんは一日にしてならず 発がんと予防の最新知識』はとても気に入った。がんにまつわる話題を網羅的に扱っていて、しかもわかりやすい。「がん=不良少年」など、たとえがたいへんうまく使われている。おかげで、これまでピンとこなかったフリーラジカルや発がんのメカニズムがよく理解できるようになった。これは患者にとって、とても重要なことだ。またがんの研究史に明るく、ヒポクラテスや中世のペスト禍などの話題が豊富で楽しい。
筆者は国立がんセンターの研究員。金もうけや名声に走りがちな臨床医ではなくて、発がんを研究する研究医の視点が本書を貫いている。たとえば、紫外線、化学物質、ストレスなど発がんの原因は多様なのに、なぜ同じがんができるのか。それは「細胞」という城の防御反応だ。最初は外からの攻撃に対して炎症というかたちで防御するが、「長いあいだじわじわとした攻撃が続くと、細胞増殖という長期戦の形態をとるようになる」。篭城攻めのために食料を備蓄する感じだな。なるほど、以前「痔」も「風邪」も「がん」も同じ生活習慣病だと読んだが、そういうことか、とピンとくる。
著者は絵が趣味だから、ということで挿絵まで自分で描いている。読書家で研究肌で芸術をたしなむきわめて健全な精神の持ち主だという気がする。こういう人は絶対がんにならないだろうなあ。
先日、職場で同じく苦しんでいる同僚に、「外にはさまざまな矛盾や問題が満ち溢れていますが、お互い自分の体の「中」にはそれを持ち込まないようにしましょうね」と書いたばかりだったが、ちょうど同じことを本書がうまくまとめてくれていたので引用させていただく。

人間のからだは、外部環境のさまざまな刺激に反応しながら、内部環境を一定に保つ働きを持っています。外部環境の変化についていけなくて、内部環境に破綻をきたした状態が病気です。病気が環境を映す鏡となるのは当然のことでしょう。がんは、内部環境の長年にわたる歪みの中で成長した細胞社会の反逆者です。最初は、社会ルールにささやかな抵抗を示す不良少年でしたが、選抜試験を勝ちぬくごとに「不可逆性」の悪性度を獲得していきました。…多分、悪いのはがん細胞のほうではなく、細胞の不良化を許してきた内部環境のほうでしょう。(p.214)

がんは一日にしてならず―発がんと予防の最新知識 (大月リライフBOOKS)