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 『笑いと治癒力』

カズンズ『笑いと治癒力』はこの道では知らない人のない名著だ。「要するに笑えば治るんでしょ」と結論をわかった気になっていたので、本書は「つん読」状態だったのだが、先日初めて読んだ。読む価値はあると思った。
意外にも「笑い」の話はあまり出てこない。プラシーボ(偽薬)がなぜ効くかという第二章が面白かった。「たくましい生への意欲」こそ、「未来に向かって開いた窓」だ。プラシーボは「生への意欲を詩的な観念から肉体的な現実に変え、一つの支配力に変える役割を果たす」。
誤解されがちだが、著者は非科学的な民間療法や代替療法を推奨する立場にはない。現代の科学的医学の最大の問題点は「十分に科学的でない」ことにある。なるほど、医者の見得や業界との癒着優先で動く医学界は「科学的」ではないなあ。だから、「現代の医学は、医師と患者とが「自然治癒力」の中に働く肉体と精神との力の管理法を学び取った時に初めて真に科学的になるであろう。この書物はその科学的伝統に役立つ書物である。」(p.186)
よく「ガンになってよかった」「人間的に成長した」などと嘯く患者がいて、そういう人たちには不快感を感じていたのだが、そのことをカズンズはパステルナークを引いて嘲笑している。

「インノケンティ、きみの流刑の話を聞くのはつらかったよ。きみが流刑中に成長をとげたとか、流刑がきみを再教育したとかいう話を聞くのはね。まるで馬が、自分で自分を乗り慣らしてみせたと話しているようなものじゃないか」(p.51,『ドクトル・ジバゴ』)

馬が自分で自分を乗り慣らしたと自慢する。そういうことだ。
笑いと治癒力 (岩波現代文庫―社会)