ergo sum

健康ブログであるような、ないような

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 ステープラー

ステープラーって何だろう、と気になったので、谷田達男「ステープラー」(『胸部外科』62-8, 2009)という記事を取り寄せて読んでみた。「胸腔鏡手術の際に肺や気管支、血管を切離するための器機である」ふむふむ。現在二社から発売されている(そのうちのJ&J社といえば、日本看○師協会の幹部が多額のわいろをもらっている、という話を看護師の友人から聞いたばかりだなあ)。ステープラは、sinkoさんに教えていただいたとおり、めんどくさい縫合をせずにすむので、何よりも医師にとっての簡便性のために、存する。そういえば私は小学生のころ、布地を切って人形のドレスを作ったはいいが、裾の縫い方がわからなかったのでホチキスでとめてしまった記憶があるが、すごく後ろめたかったことを思い出した。
紙面の大半は製品の説明だが、完全に打針できなかったり、途中で止まってしまって切除が不能であった症例などがあるとのこと。トラブルの原因は、「人為的なミス」と、製品そのものの内包する作成段階のミスの両方がある。前者は「組織の厚さに適合しなかったステープルを使用したり、切離を繰り返すうちにナイフの切れ味がわるくなりカートリッジのピンを破壊してしまい打針ができなかったなどがあげられる」。

呼吸外科設立直後の私の病院であれば、ナイフの老朽化云々の問題はないだろうが、患部に適切なサイズの製品が揃っていなかったり、使用し慣れていない新品を用いることによるトラブルは可能性としてありうるだろう。

これまでステープルのミスファイア〔組織は切れたがステープルの打針が不完全〕などにより切離面から気漏が生じたり、血管切断の際に打針が不完全で大量出血したことなどが研究会や地方会、まれに学会や総会で症例報告されることがあるが、実際の症例数や原因に関しての詳細を知ることは困難である。〔・・・〕
文献的に示されるトラブルについては、生命に危険が及んだ場合や大出血となり胸腔鏡下手術が開胸術に変更された場合などについてが大半で、肺の切離面からの出血や気漏などのminor troubleなどについては報告すらされないのが原状と考えられる。医療安全の面から考えても、インシデント報告が少ない医師が軽微な問題としてこれらのminor troubleをすべて報告するとは考えられない。


人為ミスにせよ製品ミスにせよ、そもそもミスは報告されることが「少ない」。だから、ミスは「ない」ことにされる。
「インシデント報告が少ない医師」という表現は面白かった。ミスをしても隠す医師がかなりいるということだ。ぞっとするなぁ・・・まあ企業であっても、微小な計算ミスや誤字脱字を隠すのは日常茶飯事だけれど。
だが、ここでいうmajor troubleとminor troubleというのは「手術の成功」という意味でのmajor/minorであって、患者の生命や生存率に関してのcriteriaではないことに注意したい。大出血や大失敗がないという意味で「成功」であっても、マージンの少なさや雑な術式から再発可能性が高まることはある。たとえば、もし私が再発したとしても、手術としては「成功」にカウントされてしまう。後で故障しようが使い勝手が悪かろうが、商品を売ってしまえば営業マンの業績になるのと同じことだ。
執筆者の谷田氏は、一方的な製品の賞賛を行って業者を喜ばせることなく(かなり勇気のいる論文だったろう)、こうしたminor troubleの報告の積み重ねが必要であり、それが医療の安全性や質に寄与する、という論旨を展開されているので、たいへん良心的な方だと思う。そして彼の最後の一文が、こうである。
欠陥品が常に存在することを念頭におき余裕のある手術を心がけたい
それならば、患者としては、次の一言をつけ加えねばなるまい。
「欠陥のある医師が常に存在することを念頭におき、余裕のある治療・病院選択を心がけたい」


Ps.おい、自分、こんな論文読んでないで、自分の専門の論文読めっ!