現在出張中でドイツに来ている。ARTEというテレビでドイツの演出家クリストフ・シュリンゲンジフの特集をやっていた。今年の８月２１日に４９歳で肺がんで亡くなった人だ。もともと彼は偶像破壊的な演出家で、たとえばワグナーの『パルジファル』の聖堂騎士団（コーラス）に仏教やイスラムの僧侶を入れた演出で論議をかもしたりしている。もっとわかりやすくいうと、子供の頃、母親が血みどろになって死ぬ夢をみたり、野原で電動のこぎりをもった男に追いかけられたりするーーそんな誰もがもっている（そして抑圧されている）内面的イメージをそのまま舞台や映画で外面化する人だ。
そういう人物ががんになった。もちろん生と死と恐怖と不安と…そんなすべての感情を表現せずにはいられない！いや、表現者にとっては絶好のチャンスだった。大きな紙の上に自分のがん細胞や感情や神の相関図を描いてみたり、自分自身の究極のオペラを作ろうとする。第二のバイロイトとしてアフリカに理想の舞台を探しに飛んだりする（４０度以上の暑さは患者にこたえただろうに）。いや、宗教とか国とかのチョイスが恣意的だとかそんなことはどうでもよく、彼が思ったこと、感じたこと、感じたいこと、見たいこと、そのすべてをものすごいエネルギーで「そのままに」目に見える形にしていく姿が、なにか奇跡的なもののように私の眼に映った。というのも、普通の患者は――とくに日本の乳がん患者なんかは――病気であることを隠し、（自分を憐れみながらも）一般人であることを必死に装っていて、あたかもびくびくしているのが「死」に対してなのか、「世間」に対してなのかわからないくらいで、そして唯一できることといえば、無駄な健康食品や癒しグッズを購入するだけ――すなわち社会にとって都合のよい消費者（ていうかカモね）になって終わる。恐怖も不安も抑圧されたまま死に突入する。泣きもしない。叫びもしない。自分の生きた証を残そうともしない。
そんな鬱屈とした気分だったから、シュリンゲンジフの仕事にはたいへん興味をひかれた。とくに彼は、がんになったことが自分の罪なのかどうか――単にたばこがいけなかったとかいう表面的な話ではなく（ま、ヘビースモーカーだったけど）――キリスト教でいう原罪とこのがんとは関係があるのか、そしてがん患者が誰しももつ漠然とした、しかしたいへん重たい罪悪感をどのように物質化し、表現しうるのかを・・・このうえなく真剣に模索し続けた。哲学的にどういう答えが出たのかはわからない。だが感じることすべてをオペラの演出のなかに叩き込んだのは確かだ。
そして死んだ。彼の内面を、がん対する思いのすべてを、すべての心の軌跡を、後に残して。それは誰かが見るだろう。私もいつか彼の作品を見たいと思う。これからも誰かが見るだろう。
そういうことが必要なんだと思った。黙って死んではいけない。
＊てゆーか、テレビ局は絶対こういう番組を作るべきだ〜〜！ がん患者＝弱者を餌にして社会＝強者の思い通りの神話（結婚、愛、幸福）を大衆に押しつけ、大衆から金をせびりとろうとするような、日本の余命嫁やピンクリボンなんかいらないから〜〜！！お涙ちょうだい路線（＝かわいそーながん患者）もいらないから〜
http://www.lematin.ch/flash-info/monde/deces-metteur-scene-allemand-christoph-schlingensief
Décès du metteur en scène allemand Christoph Schlingensief
Le metteur en scène iconoclaste allemand Christoph Schlingensief, qui était atteint d'un cancer du poumon, est décédé samedi à l'âge de 49 ans, a annoncé à l'AFP un porte-parole du festival de théâtre Triennale de la Ruhr.
AFP - le 21 août 2010, 17h57
Le metteur en scène iconoclaste allemand Christoph Schlingensief, qui était atteint d'un cancer du poumon, est décédé samedi à l'âge de 49 ans, a annoncé à l'AFP un porte-parole du festival de théâtre Triennale de la Ruhr.
Christoph Schlingensief était probablement le plus grand provocateur du théâtre germanophone contemporain, et était connu à l'international. "Enfant terrible", Christoph Schlingensief était à la fois cinéaste et metteur en scène de théâtre et d'opéra.
Après un nouveau diagnostic de cancer, il avait été contraint d'annuler en juillet les sept représentations de sa nouvelle production, "S.M.A.S.H", qui devait initialement s'étaler du 21 au 29 août au festival Triennale de la Ruhr, à Müllheim (ouest).
"Il ne se sent pas en mesure de présenter son oeuvre dans le calendrier prévu", avait indiqué le festival. L'auteur avait alors révélé dans une lettre que son travail lors de sa production précédente, "Via Intolleranza II", avait déjà été pour lui "une dure bataille".
Christoph Schlingensief, qui aurait eu 50 ans en octobre, avait notamment monté sa première mise en scène d'opéra en 2004 avec une nouvelle production de Parsifal au prestigieux festival de Bayreuth (sud). La production avait suscité la polémique mais avait été présentée quatre années consécutives au temple de la musique wagnérienne.
