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「がんを生きがいにするな」

与謝野馨氏の『全身がん政治家』を読んだ。この人は4つの異なるがん、うち3つの再発という多重がんと関わりながら政治の要職を務めてきた人で興味が湧いたためだ。
20年以上がんと付き合いながら、今なお元気にされているのは、一つには症状が出たときに早めに診察を受けて、適切な医者にかかり、適切な(=日本で考えられうるベストの)治療を受けてきたためだろうと思われる。代替医療は行っておらず、放射線や化学療法などをフルコースで受けている人なので、医者側からすれば日本医学のすばらしさの証人のような、ありがたい存在だろう。
たくさんのがんとの付き合いなので、もっとどろどろした内容とか、深い悟りのようなものを期待していたが、さにあらず、一番のメッセージは「がんを生きがいにするな」。なるほど。がんなどを生きがいにすると、結局がんにやられて死んでしまう。生きがい=死にがい、だしなあ。
というわけで淡々とした病気の記録と政治状況の客観的記述に徹した内容だ。この人の良いところは、与えられた情況を自然体で受け入れて生きてきたことだ。無駄にあがいたり諦めたりしない。これだけ偉い政治家なのに、病院の都合で担当医が変わりますといわれれば「ハイ」と受け入れ、医者の提案を「ハイ」と返事一つで受諾し、待たされれば何時間でも黙って長いすに座って待っていそうなタイプだ(もっとも一般庶民が同じことをすると、三流病院の三流医者の食い物にされ、時間とお金を無駄にする可能性もあることは言い添えておこう)。ついでにいうと、自民党にいたのに別の政党から誘われるとやはり「ハイ」といって移籍して、まじめに大臣の仕事をしてしまうようなタイプの方だ。私は政治家は一般的に嫌いなのだが、彼は好感がもてる人の一人だ。
自然体で謙虚で勤勉なのだが、ご本人も言っていたとおり、政治家向きの性格ではないとも言える。虚栄や権力に喜びを感じる人ではないのだから。政局の変動にまじめに一喜一憂することがストレスにもなっただろう。むしろ官僚向きなのに、と思う。
詮索すればきりがない。直腸がんの放射線や化学療法の治療が部位の近い前立腺がんの発生に影響したのではないか、などなど。しかしもう、どうでもいいだろう。人間、学習は必要だが、過去を振り返って、あのときああすればよかった、などと悩むことが一番精神衛生上よくない。無駄だからだ。今を受け入れ、現時点でベストの選択をすれば、それでよい。あとは何も考えない。仕事か趣味にまい進する。私のように、よけいなことを調べすぎて、医者に対して意思を通せたかどうかの「勝った負けた」で戦うのもむなしくなってきた。
とにかく与謝野氏にはあと何十年もがんばってほしい。

ps.ただしもっぱら好奇心をそそるようなこんなタイトルの本を売り上げ目的で企画した出版社もどうかと思う。また、多くの患者の励みになりますよ、と言われて素直にそれを受諾してしまった与謝野氏の人のよさも、どうかと思う。愛着を込めて言うのだが。
全身がん政治家