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 エンタメとしての再建術

フジテレビの金曜エンタテイメント「最強ドクターが救った命と家族の絆スペシャル」で乳房再建術が取り上げられていた。再建の希望をもつ人のニーズに応える医療があることは望ましいと思うが、番組の作りにはうんざりした。のっけから「命をとるか乳房をとるか」の10年前のキャッチフレーズがおどろおどろしく流され、副題も「絶望からの再出発 乳房がよみがえる」。素人の視聴者に対して「乳がん=乳房全摘=絶望」のイメージを植えつける。とりわけ再先端技術として乳首の再建が強調されていたため、おのずから「天然の乳首のある女」「人工乳首のある女」「再建のできなかった女」の三つに女性が差異化され、階層づけられる。再建できた女性は、希望と美しさを取り戻すことができました、と涙を流さんばかり。しょせん「エンタテイメント」だからこんな作りでもいいのか。「女性の象徴である乳房を失うことは命を失うことよりつらい」と番組は強調するが、実のところ乳房崇拝文化は男の乳房フェティシズムに端を発し、それを女性たちが内面化しているにすぎない。「乳房は女の象徴」「髪は女の命」などの言葉を真に受けて治療を拒み、若くして死んでいった女性たちに対する責任をマスコミはとってくれるのだろうか(絵門さんもそうだった)。
科学的に問題点を指摘してみよう。まず、現時点では温存術の方が多数派で、生存率も全摘と変わらないことを指摘すべきだったろう。次に、形成手術をした場合、傷口に再度メスを入れることになるので侵襲度が高く、これをきっかけに再発する可能性があることを検討すべきだろう(再建した場合とそうでない場合の再発率の差のデータを明らかにすべきだ)。つまり傷口付近で休眠していたがん細胞を刺激して目覚めさせてしまう可能性があるということだ。また再建すると、局所再発のときにより気づきにくくなるのではないか。――だが、どうせ乳がんは全身病で再発しやすい病気だし、再発したら根治は無理で気長に治すしかないのだから、再建して少しでも気分よく生活できればそれでいいのではないか――というあたりが医者の本音ではないか。再発率ひいては寿命に影響するのなら、私は絶対に再建したいと思わない(温存術だったが)。
番組途中、形成外科医の女性が、どんなに忙しくても毎日夫のために「愛妻弁当」を作ることが強調されていた。意味がわからなかった。「愛妻弁当を作って」「女らしくて」「女の気持ちがわかって」「ひたすら乳首を再建してあげている」女って… 科学的職業である医者でありながら女ジェンダーをもつ女を番組(=男)が称えているにすぎない。最先端医療でも最強ドクターでもなんでもないでしょが。視聴者をバカにするな。