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 医者を説得する 〜化学療法へ〜

手術後の病理検査の結果、ザンクトガレンの分類でいう中リスクだとわかった。ホルモン受容体が陽性なので、医者はリュープリンだけでいい、という判断。だが納得がいかず、いろいろ調べた。オンライン相談2件、癌専門病院でのセカンドオピニオン1件。だいたい状況がわかった。医者の8割はホルモンだけで十分です、と答え、残り2割は「少しでも再発率を下げたいなら併用を薦めます」というのが現況だ。どちらも間違いではない。あとは併用でどのくらいのベネフィットがあるかを自分で調べて、決断することだけだ。このさい一時的な副作用はまったく気にしないことにした。
一番影響を受けたのはEBC-TCGの15年間の再発曲線だったと思う。乳がんは10年間再発しなければ一応治癒したと言われているが、それは10年以上の厳密なデータを見ていなかったからだといえる。グラフでは10年を過ぎても相変わらず同じ率で再発が生じている(先日患者会で26年目に再発した人を見た)。術後2,3年以内の再発率が高いことは有名だが、それ以降も、たとえリンパ転移無しの初期がんでも、毎年新たに5%ずつくらい新たに再発する人たちがいるということだ。その発生率は4年目から15年目の間に、ほとんど減らない。自分がいつ再発するのかとびくびくおびえながら(運がよければ)15年過ごすのと、今のうちにできるだけの治療をして統計的な再発可能性を極小化し、あとは神任せとするのとでは、ぜったいに後者の方が気が楽だ。それが私のQOLである。
それには主治医を説得せねばならない。診察日に私はどっさりと資料を用意した。まずAdjuvant Onlineのサイトで(無料だが会員登録が必要)私の与件を打ち込んだ再発率のデータをプリントアウト。アメリカで医者が患者にリスクや可能性を示すのによく使うサイトだ。「このままだと10年間の再発率は18%、ホルモンのみでは11%、CMF併用では7%。つまりCTも加えて得するのは4%の人ということになり、そのくらいの確率ならやってもいいかなと思っています。こっちの紙はアントラサイクリン系の場合、あるいは腫瘍径を大目に見積もった場合です…」
これに対して医者が発するコメント2点も予測済み。「これはアメリカのデータだから日本人にそのまま当てはまるとは…」(でも日本人についてのこれだけのデータがないのだから、現時点ではこれを信用するしかないのでは)。「ホルモンとCTの併用で本当にこれだけ効果があがるのかどうか…」(アメリカのCT万能主義に対する否定的なイメージが日本の医者には根強い)
後者に対して『ランセット』の2005年5月号の現物を示す。50歳未満・リンパ転移無しのケースで併用で効果があがっていることを明示するグラフを示し、「これはイギリスだけでなく複数国のデータを統計化した論文です。ホルモンとCTの効果はそれぞれ独立して生じる、つまり併用したからより効きにくい、ということはない、というのがこの論文の結論の一つです。…とにかく、もし再発したときに後悔したくないってことなんですが、先生」
すると「じゃあやりましょう」とあっさりと認めてくれた。もっと反対されると思ったのに。「普通はアレですけど、まあ専門の人の場合ですから」と。私は心中うれしかった。でないと一生、この病院とこの医者を選んだことを後悔して生きることになるからだ。どの病院でもいい、どの医者でもいい、自分で勉強して、自分の受けたい通りの治療を受けられる、その願いを自力で達成できたことの満足感を味わっていた。その喜びはもちろん副作用云々の恐怖よりもはるかに大きなものだった。