出張で数日間東北地方に行ってきた。体力の回復を実感できて、なによりもうれしかった。化学療法の頃は、10歩歩くだけで「しゃがみたい」と切望するほど疲れやすかった。たった20分の電車にもグリーン車使用、徒歩10分の距離もタクシー。それなのに、今は新幹線を乗り継いだり、荷物を転がしてあちこち行ったり、観光のために美術館を歩きまわったりできるようになった。それだけでずいぶん自信がついたように思う。本屋の立ち読みや、ウィンドーショッピングなどももうすぐできるようになるだろう。
一つだけ困ったことがある。ずっと帽子をかぶっており、コンサートや美術館でも全く問題がなかったのに、旅先で由緒ある神社に行ったとき、「神様の前で帽子は失礼です、脱ぎなさい」と突然しかられたことだ。といって病気のことを知らない仕事仲間の前で帽子を脱ぐわけにもいかず、「頭を怪我してるんです、すいません〜」と言ってそそくさとそこを立ち去らなければならなかった。神前の帽子が不敬だという発想はわからないではないが、神主の風情には由緒ある神社だというプライドが満ち満ちている感じだったので（歴代天皇が行幸あそばした、と随所に張ってある）、「うるせえ、神の名を騙っていばってんじゃねえ。お前に何がわかる！」と心中で叫んだ。
