ergo sum

健康ブログであるような、ないような

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 女医ならいいか

権力的でない医者と患者の関係がありうるのだろうか。それは権力的でない師弟関係、男女関係等がないかと問うのと同じことになる。原則的に医者と患者、男と女という二重の権力関係が生じるのが乳がんという病気の特殊性だ。さらにいうならば、働き盛りと老人、という年齢格差もあるだろう。
ネットサーフィンをすると、なんども実名を拝見する女性医師がいる。この分野では松田聖子和田アキ子のように有名人らしい。トップクラスのがん専門病院に勤務する女性の専門医とくれば、患者の期待や安心感はさぞかし大きなものだろう。市民向けシンポジウムや患者会の催しにもかなりの頻度で参加する。厚生省の治療方針ガイドブックにも名前が載っている。いわゆる優等生的な医者だ。教師にたとえて言うならば、生徒の面倒もよくみるし、校長先生の受けもいいし、PTAでも人気があるし、しかも自分自身勉強熱心で通っている女教師、というタイプだ。あわよくば20年後に教頭くらいになれるかもしれない女性の出世コース。だがネット相談室に寄せられた患者たちの書き込みを読むと、印象が変わる。たとえば彼女は四種類の抗がん剤治療を患者に提示して、どれかを選んでくださいと言ったそうだ。患者は素人なので選びようがなく、当惑してネットに書き込んだ。医師らしき人の返答によれば、いずれもが未承認の新しい治験なので、どれがより効果的というデータも出ていない。だからどれを選んでも変わらないし、誰にもわからない。データほしさに患者を実験台にする―――全国各地のがんセンターがそういう宿命にあることはわかるが、患者を当惑させたり傷つけてはいけない。
あるいは、「今回は切除がうまくいったので、放射線は試しに省略してみましょう」と言ったとのこと。統計的に局所再発の可能性が低い、確実な案件ならば放射線照射の省略は医者の判断と患者の合意で可能だ。「自信のある」がん専門病院ほど省略を行う。だが学会のガイドラインでは温存術の場合照射は必須である。その事実や放射線の必要性を説明せず、統計データほしさにグレーゾーンの患者に対して照射を省略する、しかも「試しに」なんていう煙にまいたような表現で患者を苦悩させて。そんなのは許せない。放射線なしに当院は何パーセントの10年生存率を達成しました…そういう病院、ないし医者、の宣伝のためには有用だろうが、その患者自身にとってはどうなのか。もし局所再発したら、医者は責任がとれるのか。いや、とれないし、とる必要もない。患者本人が合意したからだ。
こんなやりとりで複数の患者を苦しめ、ネットに書き込みさせる医者が、良医であるはずがない。治験なら治験とはっきり説明して、「あなた自身をよりよく治すためではなくて、将来の患者をよりよく治すために必要だから協力してほしい」とはっきり言うべきなのだ。どんなに笑顔が美しかろうが、どんなにやわらかい口調で患者に話しかけようが、こんなのは業績主義の名誉男性だと、私は思う。だからもし私が再発したりして、その医療機関にかかることになった場合は、○○先生以外の人を主治医にしてほしい、と最初に窓口で言うつもりだ。
それでも、ネットで見かける女医は彼女を含めてほんの数人で、残りはすべて男性だ。この分野がどれほど旧態然としているかわかる。松井さんの本によればアメリカでは医療スタッフが女だけの病院もあるというのに。せめて日本では、「女にとって不愉快な男ジェンダーをもたない男性医師を探す方法」を誰か考えてくれないか。いや、ジェンダーをもっていてもいいから、「男ジェンダーを仕事に持ち込まない人を探す方法」を教えてほしい。
というか、自分でやるしかないだろうな。手がかりはあるのだ。権威主義的、家父長的な男は、絶対といっていいほど男ジェンダーなのだから。具体的には、わざと/平気で難解な専門用語を使う、患者が他の先生・他の病院に言及することをすごくいやがる、患者が示したソースにあからさまな軽蔑の念を示す、治療したことに文句をつけるとむっとする…など。