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 捏造された合意 〜全摘か温存か〜

全摘か温存かという選択肢において、医者とどのように話せるかは、その人の患者力が問われる局面だろう。昔のことを思い出して書いてみたい。新しい患者さんの参考になるとうれしい。
「ええと、あなたの症例の場合は温存でいいと思いますが」と私の担当医は言った。(ここでありがたがって、「はい喜んで」なんて即答するのはダメ。)
「温存で「いい」とはどういうことですか」
「腫瘍径等の条件を考えて、温存の適用になるということです」
「適用というのは・・・絶対大丈夫ということですか」
「そうではなくて、再発はゼロとは言えませんし、もちろん全摘を希望されるならそれでもいいですが」
「全摘する人もいるんですか」
「おばあさんなんかで、放射線治療が面倒だ、っていう人はとっちゃいますけどねえ。あなたはまだ・・・」
「温存と全摘・・・美容という点ではなく、再発というような点で、どう違うんですか」(こう言わないと、美容の面での説明に終始されてしまう)
「生存率はほとんど同じです」(ここがポイント。それなら温存の方がいいわ、と多くの人は騙されてしまう)
「ということは、結果として、全く違わないということですか」
「いや、そういうわけでも・・・再発率は温存の方がちょっと高いです」(ほらみろ)
「ちょっとってどのくらいですか」(ここでまともな医者なら「NCIの90年代のデータでは4%くらいです」といった具体的な数値を出せるはず)
「まあちょっとですよ(ごまかしたな、お前)。10年生存率はほとんど変わらないわけですから」(変わらないと言ったって、それは再発してもすぐには死なないからであって、20年無病生存率は大きく違ってくるはずだ)
「温存にせよ全摘にせよ、もし再発したとして、その場合の差はなにかありますか」
「まあ、そんな先のことまで考えなくても・・・」
「差はないんですか」
「温存の方が、再発した場合の生存率は低いです。が、ちょっとの違いです」(また「ちょっと」かよ)
「その数値は・・・」
「すいませんが、後の方が待っているので。で、どうするんですか」
「家に帰ってよく考えます」(そして自宅で掲示板をみたり、MLに質問を出したり、セカンドオピニオンをとるのが理想なのだが・・・)
「ご主人だって温存を望まれるんじゃないんですか(これを赤の他人に言われるのはすごく不愉快)。入院の日を今決めないと、また1ヶ月先になっちゃうんですけどねぇ」(お、権力の行使に出たな)
「それはちょっと・・・ じゃ、じゃあ、たぶん温存ということで」
とまあ、このへんまで議論を引き伸ばせればまあまあだと思うのだが、告知を受けた直後の人ならなかなかここまで粘る余裕はないだろう。結局のところ、医者の言うなりにするしかない。こういうのを「捏造された合意」と呼ぶ。このときの担当医は、今は有名ブランド病院で働いている・・・

教訓
「10年生存率(再発含む)」と「10年無病生存率」は区別しよう。
「ちょっと」がどのくらいなのか、聞く習慣をつけ、それが「ちょっと」かどうかは自分で判断しよう。