ergo sum

健康ブログであるような、ないような

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 騒いでいいのは

騒いでいいのは顔にゴキブリ跳びかかられたときだの、猛毒のアカゴケグモが天井からおりてきたときだの、部屋の隅に逃亡してきたグリーンパイソンを発見したときに限られるような気がする。あとは、「騒いでも仕方ない」ことは騒がないし、「騒ぐと格好の悪い」ことは騒がないし、「騒ぐ」ということについてはとにかく抵抗があるというか、美学があるから、「ショックを受けて騒ぐ」などという格好の悪いことはしたくない。(『転移』p.104)

今朝、いやな夢を見た。体中にしこりができてがんが再発、住むところは焼け野原になってるし、外国に行ったら迷子になる・・・そんないやなことのフルコースみたいな夢だった。理由はわかっている。ひとつは引越しで家の中がすっからかんになっていること、ひとつは職場の部長予定者(50代)が何かの重篤なガンにかかったらしく、人事を巡って大騒ぎだったこと、もうひとつは職場のバカ社長がトップダウンで会社を二分するようなバカな案をごりおししようとしていることが判明したこと、そしてもうひとつは中島梓さんの『転移』を読んだことだ。
中島さんは56歳の小説家で、1990年頃に乳癌(生存率50%という厳しさをらくらくクリアー)、2007年にすい臓がんに罹る。前回のガン闘病本『がん病棟のピーターラビット』は題名がメルヘンチックすぎて、全く読む気になれなかったが(いかに優雅な闘病生活をしているかの自慢話だと予測された)、今回の『転移』は最晩年の日記をそのまま出版したもので、彼女の生の声が聞こえる。久しぶりに買って読んだがん闘病本だった。この本には、彼女が意識を失う直前のメモや絶筆もそのまま掲載されていて、なまなましい。最後にパソコンで打った文字は「ま」。そして途絶える。この「ま」は、「まだ生きている」の意味だと思われる。最後の「ま」まで書き続けた、文筆家の執念が痛々しい。
上記の引用にある通り。騒いでいいのはゴキブリがいたときだけ。「かもしれない」しこりや不調でいちいち騒いでいる私は未熟者だなあ。中島さんのように、肝臓に大きな腫瘍を三つもかかえていたら、そんなことでキャーキャー言ってられないのだ。彼女のことは、またこんど続きを書きたい。
転移